都会の喧騒をバックミラーに残して、3人を乗せた車は海を目指す。
やがて視界はひらけ、晴れ渡る空の底には田畑が広がっていた。
単調な景色の中を貫く一本道を、ゆらゆらと漂うように進みながら、色んな話をした。
彼女は頭を僕の肩にもたせかけ、腕にしがみつくようにして二人は寄り添っていた。
眩暈がしそうなくらい甘い香りが鼻をくすぐり、腕を介して彼女のぬくもりが伝わってくる。
ずっとこのままで居たかった。でも、時を待たずして終わりはもうすぐ訪れる。
そんな切なさが肺に充満し、押し出されるように細い吐息が漏れていた。
お互いの心が通じ合うなら、言葉はさして必要ではない。
心地よい沈黙の中、僕たちは無言の会話を楽しんでいた。
(※下のテーマ曲をBGMにして、続きを読んでいただけると嬉しいです。)
半島の南端にさしかかり、目の前に広大な太平洋が姿をあらわした。
澄みわたる青空とコバルトブルー色の海面との境い目から広がるさざなみが、太陽の光を反射して銀色に輝いている。
「わあー 海だー 今年はじめてのうみー」目を輝かせて喜ぶ彼女の横顔を見ながら、やっぱり海に来て良かったなと思った。
左手に海を眺めながら、海岸沿いをゆったりと流す。
生温かい潮風がウィンドウから入り込み、優しく僕達を包み込んだ。
人影まばらな海水浴場に車を停め、彼女と二人で渚をゆっくり歩いた。
遠くから静かに押し寄せる潮騒が、身体の芯まで響かせる。
砂に足を取られそうになってよろける彼女の手をそっと握った。
波打ち際を歩いていると、ふいに大きな波が砂浜を駆け上がってきた。
足が濡れないように必死で逃げて、二人は他愛もなく大笑いした。
金色に輝く太陽の下で、全ての瞬間がキラキラと輝いていた。
車に戻り、海の近くのホテルを目指す。
「はやく・・・したい・・・」太ももをそわそわさせて、彼女はそう言った。
ドライブという長い前戯を経て、身体は極限までお互いを欲していた。
海辺のホテルにチェックインするなりすぐに服を脱ぎ捨て、シャワーも浴びずに二人は肌を重ね合わせた。
もうすぐお別れしなければいけないから、せめて記憶に刻みこむように、丹念に愛撫し、強く抱きしめた。
「嫌じゃ・・・なかった?」彼氏がトイレに行った隙に、彼女は僕の目を覗き込みながら唐突に聞いてきた。
とろんとしたまぶたの奥の瞳は、溢れはしないが涙を貯え光り輝いている。
そのとき僕は彼女の何かを理解できたような気がして、なぜか胸の奥が締め付けられる思いがした。
「とんでもない、すごく楽しかったよ」「マリちゃんこそ、嫌じゃなかった?」
僕の目を見つめ、微笑みながら首を大きく横に振る。
そんな彼女が急に愛おしくなって、ずっと強く抱きしめていた。
空港へ向かう車内で、名残惜しみながら二人は寄り添っていた。
3日間の物語の終わりを告げるかのように、セントレア空港が遠くに姿を現す。
「また会いたい」彼女が小さな声で呟いた。
「うん、きっとまた会おうね」
別れの間際で、そんな不確定な未来の言葉はあまりにも無力だった。
車は空港に滑り込み、停車する場所を探すがなかなか見つからない。
チェックインの時間が迫るなか適当な場所に車を停め、お別れの挨拶も程々に、バタバタしながら二人はターミナルビルへと走っていった。
飛行機に間に合うことを祈りながら、小さくなっていく二人の背中を見送った。
夏の終わりに、僕達は小さな恋をした。
例えそれが擬似的なものであったとしても、あの瞬間僕は彼女に恋をしていたし、きっと彼女も恋をしてくれていたと思う。
期間の長短はそれほど重要ではない。この世界に永遠というものは存在しないのだから。
最後に、あの夜耳元で囁いてくれた言葉に返事をしたい。
僕も
「しあわせ」だった、と。
エンディング曲 真夏の果実 (作詞:桑田佳祐)
涙があふれる 悲しい季節は
誰かに抱かれた夢を見る
泣きたい気持ちは言葉に出来ない
今夜も冷たい雨が降る
こらえきれなくて ため息ばかり
今もこの胸に 夏はめぐる
四六時中も好きと言って
夢の中へ連れて行って
忘れられない Heart & Soul
声にならない
砂に書いた名前消して
波はどこへ帰るのか
通り過ぎ行く Love & Roll
愛をそのままに...
CAST
主演 マリ(仮名)
カーマ鈴木
助演 彼氏
原作・制作・監督 カーマ鈴木
(完)注: あくまで疑似恋愛であり、それを小説風に書くということを全て含めて”プレイの一環”です。
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