日没後のターミナル駅は、夏休みに入ったばかりで開放感みなぎる学生や仕事終わりの会社員達の雑踏が行き交っていた。
いつもの駅、いつもの待ち合わせ場所、見慣れた街の風景。
でも今日は、これまでにない緊張を感じていた。
どういう女性が来るのか?自然な笑顔で迎えられるか?
そんな雑念を浮かべながら、とくだん意味もなくスマホをいじり、ふと思い出したように到着メールを送った。
不意に視線の横から現れた彼女の顔は、緊張のせいかまるで仮面のように無表情だった。
「あ、はじめまして メグミさんですか?」
反射的に出たはじめての言葉はありきたりだったが、なかなか自然なスマイルができたつもりだ。
しかし彼女は表情も変えず、コクリと小さく頷くだけだった。
「よろしくおねがいします、向こうに車を停めているんで・・」
と言って歩きだしたが、僕と後をついてくる彼女との距離は、今にも人混みに断ち切られてしまいそうなくらい遠く感じた。
「この時間は結構涼しいですね」
なんてとりとめのない会話を投げかけるが、小さく相槌が帰ってくるばかりだ。
(大丈夫かな。。。?)
そんな不安を胸に、ズンズンと歩いていた。
車に乗り込み、ホテルへと向かう。
ホテルにチェックインするなり、ガチガチに緊張している彼女にとりあえずアルコールのドリンクを薦めてみた。
届いたレモンサワーとアイスコーヒーで小さく乾杯し、改めてカウンセリングをしていく。
ホテルという密室で二人きりになり覚悟を決めたのか、はたまたアルコールの作用か、依頼した経緯や悩みを少しずつ吐露してくれた。
前の彼に言葉攻めされましたが、全く感じません。潮吹かせようとして、痛いのに続けられてしばらくトラウマでした。
また普通に欲求が戻ってきたときには、二股相手の存在・・・
人間不信になり、なかなか好きになれません。けど、ストレスもあるので、探していました。
【 年齢 】:35~39歳
こんなメールをもらったのは、かれこれ2週間近く前のことだ。
AVの影響なのか、膣に指を挿入して掻き出すように刺激し、無理やり潮を吹かせようとする男子はかなり多い。
彼女もそんな被害者の一人なのだろう。
カン違いゴールドフィンガーが炸裂すると、一気に冷めてアソコも乾いてしまうらしく、前の彼氏のことは好きでも、セックスの時間が苦痛で仕方なく、涙で頬を濡らしながら耐え忍んでいたそうだ。
そんな男性経験を経て、セックスがどうしても好きになれずに、傷ついた羽を抱えて自分のところに相談に来てくれた。
予想以上の重い悩みに一瞬たじろいだが、彼女に最適な処方箋はすぐに思いついた。
それはただひたすら、やさしく丁寧な施術をすることに尽きる。
そしてそれこそ、自分が追求してきた
スローセックスという分野だ。
今日の施術によって、何かを劇的に改善させてあげられる自信は正直無かったが、今の自分のベストを尽くす以外に方法はない。
頃合いをみてシャワーを浴びて来てもらい、その間に照明やBGMの準備をする。
今日はヒーリングミュージックでとことん癒しの時間をプロデュースすることにした。
ガウンを羽織りシャワーから戻ってきた彼女を、優しくベッドへといざなう。
枕元でさらに照明を落とそうとすると、
「わたし、明るくても大丈夫 そのほうが相手の表情が見えるから・・・」「なるほど、それもそうだね・・」
甘ったるい声でそう言う彼女をそっと抱き寄せた。
いまは彼氏がいないそうなので、今日は恋人のように施術しようと決めていた。
きっと彼女も、それを望んだはずだから。
(
傷ついた鳥たちへ(2)につづく・・・)
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